撮影終了日――
お世話になった
テレビクルーの方々と
涙のお別れをした後に
私は旦那にこう提案した。
今夜は打ち上げだ。
皆でレストランへ行こう。
間髪入れず旦那が言った。
「レストランなんか
行きたくナイ。
フィッシュ&チップスでイイ」
・・・そうですか。
だがいい。
今から作れと
言われるよりはマシだ。
我々は
フィッシュ&チップスを
貪りながら
撮影話で盛り上がった。
娘達と言えば
撮影よりも
優しいお姉さんや
愉快なお兄さん達と
一緒に遊べた事が
とても楽しかったらしい。
私は「束の間の非日常」との
別れを惜しむかの如く
ビール2本をイッキに
喉の奥へと流し込むと
気絶に近い状態で
ベッドに潜り込んだ。
そんな撮影終了日――
突如
旦那に叩き起こされた。
何事かと思い
私は無意識の内に
目覚まし時計を掴み取った。
午前4時10分。
いやマジで何事?
おののく私に
旦那が早口で捲し立てた。
「アレは何?
あんな最悪な写真を
YOUはテレビ局に
送る気ナノカ!?」
「写真」と言うキーワードに
ある出来事が脳裏をよぎった。
あれは確か数日前――
ディレクターのH山君から
特定の写真のスキャンを
頼まれていたので
私はそれらをアルバムから
抜き取っていたのだ。
「ワタシは昨夜
あまりのショックで
一睡も出来なカッタ!」
よく分からないが
そういう理由で私は
叩き起こされたらしい。
私はひどく重たい身体を
捩じらせながら
写真が置いてある
リビングへと向かった。
旦那が物凄い形相で
差し出して来たのは
写真を抜き取ったあとの
アルバムだった。
うん、それ、アルバムだね。
送る分はすでに抜き取って
キャビネットに入れてるのだが?
しばしの沈黙が我々を包み込む。
彼はなんやらブツブツと呟きながら
キャビネットの中から写真を取り出し
マジマジとそれらを凝視した。
数枚見終わった後
彼は眉根を寄せながら
私に1枚の写真を差し出した。
「コノ写真はナニ!
太っテルワタシの
写真を送る気?
ドーシテこんな
写真を――」
分かりました。
それは送りません。
それでいいですか?
再びの沈黙。
時刻は午前4時15分。
私は今一度ベッドに還って
良いものかと思案に暮れる。
――が
再び沈黙を破ったのは旦那だった。
「あのインタビューはナニ!?
ワタシは死ぬ程恥ずかしカッタ!」
何の話だ。
首を傾げる私に
旦那は更に吠えた。
「ワタシはYOUを
トテモ褒めてあげたのに
YOUはワタシの事を
全く褒めなカッタ!
アレではちっとも
素敵な家族ではナイ!」
何の話だ。
インタビューは確かにした。
だがどうだ。
それはすでに
何日も前の話である。
叩き起こしたモノの
怒る事がなくなったので
とりあえず「イラっ」とした
出来事を無理やり
捻じ込んで来たのは一目瞭然。
だがしかし
彼の「怒り」スイッチが
入ってしまった以上
もはや私の手には負えない。
ひたすら
「私が旦那を褒めなかった事」を
攻められ続ける午前4時半。
一通り私を罵倒し満足したのか
彼は静かに寝室へと戻って行った。
言いたい事を言って
溜飲が下がったならそれでいい。
私は同じベッドで
二度寝をする気にもなれず
朝から無駄に床を拭いてみたりした
午前5時――
その後のっそりと
寝室から出てきた旦那に
また同じ事で怒られる事10分。
時刻は午前7時過ぎ。
そのまま彼は
「イッテキマス」もなく家を出た。
その後
彼は「嫁と口を利かない」作戦を
決行し始めたわけだが
ぶっちゃけ
用事を頼まれないので
楽でいいと思った事は
ここだけの秘密である。
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